生首さん

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生首さん

 そうだ散歩に行こう。  思い立ったが吉日、町にある観光名所に足を運ぶ。観光地であっても地元ならばほとんど寄り付かないし。せっかく歩いていける距離にあるんだから一度は見ておこう。  うららかな日差しに秋の風を全身に受けて私は近所の城跡に向かう。ここは首塚もある。戦に負けた城主の首が祀られている。ご丁寧に立て看板に説明が書いてあるが城主は有名ではないので名前も伝わっていない。ま、戦国時代の話は私には無関係だし、あくまで散歩だからわざわざ勉強する必要もないだろう。  辿り着いたる城跡。思っていた通り、人の姿はない。わざわざ無名の城主の首塚を訪ねる物好きは少ないだろう。そのマイノリティに私は今、足を突っ込んだが。  城跡を気ままに歩き首塚に向かう。多分それがここのメインだろう。  首塚の前で足を止める。そこには石碑があるだけだと思ったが、その石碑の上に生首が浮いている。まるで落ち武者のような生首。この首塚に祀られている城主だろうか。気付かないふりしたほうがいいのか? 「なぁお主」  生首が話しかけてきた。 「ほうほう」  立て看板を読んだふりをして声をあげる。見えてませんから。 「いや。お主見えてるよね?」 「へぇ。戦国時代は大変だぁ」 「わし分かってるから。分かってるから無視やめて」  一生懸命、無視しているのに負けじと生首が語りかけてくる。面倒だなぁ。 「こほん。見えてますよ。見えてますけどね、私はのんべんだらりと時間を過ごしたいんですよ。用がないなら黙ってもらえます?」 「用……あるもん……」  生首は分かりやすくいじける。 「どんな用があるんですか? 大体生首の幽霊が可愛こぶったって怖いだけでしょ? ご自身の立場わきまえてはいかがですか?」 「だってだって! 見える人にお願いしようとするたび怖がられて逃げられるんだよ? わしだっていじけちゃう……」  なんだこの生首? 腑抜け過ぎないか?   生首の顔をよく見てみると目線は下に下がり口は半開きでちょっと泣きそうだ。苦労したのだろうか? 「ちなみにお願いって何? できることならいいけどできないことなら話聞いても仕方ないんだけど?」
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