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「で、城跡のどの辺なの?」
「それが……城がなくなって数百年経つし、わし動けなかったし、こことははっきりとは……」
「ふうん。まあいいけど。どうせ広いとこじゃないし」
「申し訳ない」
城跡をのんびりと歩き回る。その最中、生首とお話をする。
「ところで生首さん、なんで戦国時代の人なのに、もんとかじゃんとか言うの? 戦国時代っぽくないじゃんね?」
「いや。見える人がわしを見るなり逃げていくから少しだけ歩み寄ろうかと通りすがる若者の言葉を真似したんだよね」
必死で努力する生首はかなりシュールだ。
「ま、言葉の問題じゃないもんね」
「そうなの? 小さい子におばけなんてないさって歌ってみたらギャン泣きされたのも歌の問題じゃないのか?」
「生首のおばけが歌ったって怖いだけじゃない……」
「わしが生きてた時代は生首、珍しくなかったのになぁ」
「時代が違うから……」
ちょっとだけ怖くなる。生首だもんね。生首になるだけの理由はあるのだろう。実は悪政敷いてたとか悪党だったとか。生首さんを見ててもそんなイメージは沸かないが、私の知った話じゃない。
まずは城跡の外周をぐるっと回ってから内側を歩き出す。相変わらず人はいない。
とてとてと歩きながらもう一つ気になったことを聞いてみる。
「ねぇ話を聞いてくれる人は私以外にはいなかったの?」
「……一人おった。もう何百年も昔だが」
「へぇ。その人はどうして生首さんのお願い聞いてくれなかった?」
「……その娘は目が見えなんだ」
ぼんやりと私の脳裏にその景色が浮かぶ。音だけの記憶。
『私、お話するだけしかできないから……』
なんの記憶だ?
「目が……見えなかったら生首さんが生首だと気付かなかったの?」
「そうだ。なのでその娘とは話すだけの仲だった。目が見えぬ子にお願いはできない」
『四郎一右衛門はどんな顔してるの?』
まただ。記憶が浮かんでくる。頭痛がしてこめかみを押さえる。
「名前とか覚えてる?」
「はからずともお主と同じ名だ」
『志乃、もうここには来るな。皆がお主を変わり者扱いしているのだろう?』
きっとこれは生まれる前の記憶。
「やだなぁ」
つい呟くが、生首さんは当たり前といった態度をとる。
「おかしくはない。わしはお主が志乃の生まれ変わりだと思ったから声をかけた。志乃ならば、わしのお願いを聞いてくれるからな」
「ズルいなぁ。運命感じちゃうじゃん」
それが嘘か本当かは分からないが、どちらでも生首さんのお願いは叶えてあげなければならない。生まれ変わりを待つほど長い時間、未練を抱えているんだ。
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