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城跡を歩きながら中心部に私は近付く。生首さんは、うむと声をあげた。
「十歩ほど前に進んでくれないか?」
言われるままにゆっくりと歩を進める。五歩ほど進んだところで風景が変わる。
お城の中。目の前には布団。そこに首のない身体。その横に子供二人と女性が横になっている。
二歩進む。女性がこちらを向いた。
「あなた……」
「ゆき……待たせたな」
生首さんが呟く。子供たちもこちらを向く。
「父上!」
「父上! やっと会えた」
三歩進む。
「ありがとう。志乃、わしを身体に繋げてくれ」
言われるままに生首さんを肩から下ろし、布団に横になっていた身体にくっつける。
すると身体は起き上がり、生首さんは子供と女性を肩に抱く。
「これでやっと皆で天に昇れる。志乃、本当にありがとう」
そう笑った生首さんと生首さんの家族はすうっと消えていく。
消えてしまってから、つい空を見上げた。
「天国には……行けないか。戦国時代の人だもんな……」
何百年も身体と家族と離れて動けずにいる気持ちはどんなものだったのだろうか。
きっと寂しかったろう。若者に迎合したり歌を覚えたり。ただ家族と天に昇りたいがために。
「うん。帰ろう」
私の散歩は終わりだ。生首の幽霊でも怖くないのがいると言っても誰も信じてくれないだろうが、問題ない。
その話をするときは生首さんが生まれ変わって私の前に現れるときだろう。その時まで胸に秘めておくよ。またね、生首さん。
了
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