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「ねえ、センセ?」
絡めとるような甘ったるい声音で、万堂が身を乗り出した。
「僕のこと信じてくれます?」
ああ、この男。
分かってやっている。
自分が若く美しいことをよく知っていて、それを利用して生きている。
そういう種類の狡猾さが全身から滲んでみえた。
「この仕事に、信頼関係は必要なので。あなたの言ったことを全面的に信用するわけではないけれど、理解しようと努力はしますよ」
「ハッ! 努力!」
急に顔をひん曲げて万堂が声を張り上げた。
目が大きく見開かれている。
「努力ってなんだよ、努力って、さああああ!」
そこまで激昂することだっただろうか?
私は左右で高さの変わった彼の眉の形に目を留めた。
「そんなんじゃ全然、信頼する気になんてなるわけないよね? つうかなんだよ、精神鑑定って。僕のこと頭おかしいとでも思ってんのか、あァッ?」
声をひっくり返して怒鳴りつける万堂に、監視役の職員が動こうとしたので私はそれを視線で制して続けた。
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