一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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「ねえ、センセ?」  絡めとるような甘ったるい声音で、万堂が身を乗り出した。 「僕のこと信じてくれます?」  ああ、この男。  分かってやっている。  自分が若く美しいことをよく知っていて、それを利用して生きている。  そういう種類の狡猾さが全身から滲んでみえた。 「この仕事に、信頼関係は必要なので。あなたの言ったことを全面的に信用するわけではないけれど、理解しようと努力はしますよ」 「ハッ! 努力!」  急に顔をひん曲げて万堂が声を張り上げた。  目が大きく見開かれている。 「努力ってなんだよ、努力って、さああああ!」  そこまで激昂することだっただろうか?  私は左右で高さの変わった彼の眉の形に目を留めた。 「そんなんじゃ全然、信頼する気になんてなるわけないよね? つうかなんだよ、精神鑑定って。僕のこと頭おかしいとでも思ってんのか、あァッ?」  声をひっくり返して怒鳴りつける万堂に、監視役の職員が動こうとしたので私はそれを視線で制して続けた。
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