一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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「うっ……うっ……ぼくもう、たえられないよ」  俯いてしゃくりあげているかと思ったら、ぼた、ぼたりと、実際に机の上に水滴が落ちてきたので目を見張った。  泣いているのか、本当に? 「え」  堀くんが先に声を上げてしまって、それを待っていたかのように万堂が勢いよく顔を上げた。  短い前髪がぱっと散るように踊る。 「ギャハハハハ! 引っかかった? ねえ、引っかかったァ?」  ギラついた目玉、ニタニタと吊り上がった口元から真っ赤な舌が覗いている。  すっと通った鼻筋は真っ白で、ピクピクと鼻孔が広がっていた。  爛々としたその目玉は二つとも、涙なんて無縁に見えるほど嗤っていた。 「ギャーッハッハッハ! ああ、おかしい。ねえ、おっかしいね、センセ?」 「おい」  制服の職員が肩を掴もうとするのをハエでも追うように払い落として、万堂は机をコツコツと拳で叩いた。
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