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「なんて野郎だよ、まったく」
深々と吐き出した堀くんの溜息で、ようやく部屋の空気が清浄になった気がした。
「そうね」
私はなんと捉えていいものか胸の奥がモヤモヤしたまま、今日はたいして役に立たなかった書類を鞄にしまう。
「いやに芝居がかっているというか、見られることを意識している感じというか。境界例かなんかですかね?」
「まだ早いわよ。あれだけじゃ、なんとも……」
「でも妙な男であることは、確かですよ。それにやたらと奇麗な顔しやがって。悔しいけど、写真で見るより数段美形でしたね。クソッ、腹立ってきたなあ」
忌々しげに吐き捨てて、堀くんが丸っこい指先で書類を乱雑に片付ける。
「あれだけ恵まれた顔面で婦女暴行とか、ほんと許せないですね、俺は! イケメン無罪、なんつってファンレター届いてるらしいですよ、拘置所にたっぷりと。プリズン・グルーピーですよ、あー忌々しい!」
ふざけんなよマジで、などと言って堀くんは黒縁眼鏡に浮いた脂を拭いた。
「なんか怒ったら暑くなってきた」んだそうで、短い指でシャツを引っ張ってパタパタと風を送っている。
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