一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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「すげえキレイな嫁さん、か。若くてキレイな女の人と結婚すると、嫁いびりがひどくなるわよ。研究材料によさそうだし、早く結婚したら? 嫁いびりの心理構造。いいじゃない、論文というよりは新書に向いてそうで。一山いくらで売れるかしら」 「くっそ。マジ性格悪いですよね。庵野さんこそ、とっとと結婚して姑いびりのハウツー本でも出版したらいいんですよ!」  軽口の応酬をしている間に、法務センターの職員が帰ってきて今日は退室してくださいと言われた。 「今、出ます。あの、ところで。彼はいつもあんな調子なんですか?」 「あー。自分は連れて来ただけなんで詳しいことは分かりかねますが……移送されて来た時から、問題行動が多いので気をつけろとは言われていますね」  抑揚の乏しい返答の中に幾ばくかの疲労が透けて見えた。 「問題行動……」  堀くんがよっこいしょ、と重い腰を上げて、私たちは必要以上に明るい白い部屋を出る。 「なんでも初日には一晩じゅう、歌いながら無実を訴えていたとかなんとかで。私は詳しくはないんですが、ミュージカルの曲だそうですよ。レ・ミゼラブルの何かです。うるさくて仕方ないっていうんで、対応に困ったらしくってね。猿ぐつわ噛ませるか鎮静剤打つかでモメて結局どっちもやらずに懲罰房に入れたんですが」 「へえ。ミュージカル。そういうの、好きなのかしら」
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