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翌日の午前九時きっかりから万堂哲人の心理試験は始まった。
私が選んだいくつかの試験を組み合わせて実施するので、日程は充分に確保して万全を期したつもりだった。
基本のIQテストやミネソタ多面人格検査などのペーパー試験は堀くんに任せて、身体反応検査は私が直接行った。
軽い問診の後、検査用のハンマーを持ち出した私に万堂は肩をすくめてこう言った。
「いまどき、脚気って……。もし脚気だったら、僕、東京拘置所を訴えますけどね」
「一応ひと通りの検査しているだけよ。それに、脚気以外でもこれ一本で色々と分かるんだからね」
軽くハンマーを振ってみせた私に万堂は疑わしそうな目を向けて「どうぞご自由に」などと答えて手脚を広げて投げ出した。
成人男性にしてはやや細身だが、必要なところにしっかり筋肉はついているようだ。
身体能力は決して低くないと予想できるし、脂肪ばかりを蓄えて最近腹がたるんできた堀くんよりはよほど健康そうに見えた。
なお、彼の危惧していた脚気の傾向も見受けられなかったことは一応報告しておこう。
東京拘置所の待遇には大きな問題はなかったようで、何よりである。
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