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ペーパー試験のデータ分析は専門業者に一任して、検査最終日にはロールシャッハ・テストを行った。
「ロ・テストは私がやるから、堀さんは補佐に入ってください」
「ちぇ。おいしいところは全部、持ってくんだから」
何かぶつぶつ言いつつも私たちから少し離れた場所に机を移動して、堀くんが席についた。
「ロテストって何ですか」
ニヤニヤしながら万堂は机の下で長い脚を組み替えた。緊張されるよりはいいが、ここまで来ると不貞不貞しく見える。
「今からカードを何枚か見せますから、何に見えるか教えてください。特に正解があるわけではないので、自由に発想していただいて結構です」
手渡したロールシャッハカードを受け取って、万堂は薄く笑って眉を歪めた。
「なんですか、これ」
「ロールシャッハカードです。何に見えます?」
「どう見てもインクのしみですね」
指先でカードをひらひらと弄び、またチロリと舌先で唇を舐める。
「何に見えるべきなんですか、これは」
「正解があるわけではないってさっきも言いましたよね。なんでもいいですよ。何かに見えませんか」
さもバカにした目つきで、カードよりも彼は私の顔ばかり見ている。
こういう反応をする被験者は少ないわけではない。
私は注意深く観察を続けた。
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