一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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 万堂のために用意した新しいファイルはまだ厚みが少ない。  表紙に貼られたシールの万堂哲人という文字を指先で軽く弾いた。 「先が思いやられます」 「そう? 私はちょっと興味が湧いてきたんだけど」  あの男、取り澄ました顔の裏にどんな怪物を飼っているんだろう。  私たちに見られたくないような、一体何が、あの中に眠っているんだろう。  あるはずだ。  そうでなければ、ここまで反抗的な態度に出ない。  美しい殺人鬼の奥に巣食う、怪物……。 「うわあ、悪い顔」  堀くんが目を細めて唇をひしゃげさせた。 「堀さんは興味ないの?」 「んー。そうですね。庵野さんほどは、ないと思いますけど。でもこんなにいい加減なヤツの精神鑑定なんて、実際どうやって進めるつもりなんですか? 何か秘策でも……?」 「正攻法で行くわよ」  どうやら彼はひどく性格の歪んだ、頭のいい人間のようだから。 「正攻法とは?」
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