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「対等でいようと思うの。解釈するんじゃなくて、させるわ。彼自身にね」
彼の中の化け物を引っ張り出すには、それが一番早いように思われた。
あまり意味のなかったロ・テストの反応記録のコピーに穴を開けながら続ける。
こんなもんでもデータはデータだ。
「それこそインクのしみと同じことよ。この試験結果だって、解釈をつけようと思えばどうとでも言える。でもすればするだけ、ありのままの万堂哲人からは遠ざかっていくでしょうね」
耳元でごくりと堀くんが唾を飲む音が聞こえた。
それから囁くようにかすれた声で言う。
「庵野さん、万堂のことずいぶん気に入ったんじゃないですか」
「そうかな」
「俺はあいつ、大嫌いですけどね」
「それはまた、どうして?」
「俺、ツラのいい男って嫌いなんです。しかもあいつ、俺と同い年なんですよね」
へえと答えて私はもう一度万堂の生年月日に目を留めた。
満二十九歳。
私よりひとまわり以上も年下なのか。
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