一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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「対等でいようと思うの。解釈するんじゃなくて、させるわ。彼自身にね」  彼の中の化け物を引っ張り出すには、それが一番早いように思われた。  あまり意味のなかったロ・テストの反応記録のコピーに穴を開けながら続ける。  こんなもんでもデータはデータだ。 「それこそインクのしみと同じことよ。この試験結果だって、解釈をつけようと思えばどうとでも言える。でもすればするだけ、ありのままの万堂哲人からは遠ざかっていくでしょうね」  耳元でごくりと堀くんが唾を飲む音が聞こえた。  それから囁くようにかすれた声で言う。 「庵野さん、万堂のことずいぶん気に入ったんじゃないですか」 「そうかな」 「俺はあいつ、大嫌いですけどね」 「それはまた、どうして?」 「俺、ツラのいい男って嫌いなんです。しかもあいつ、俺と同い年なんですよね」  へえと答えて私はもう一度万堂の生年月日に目を留めた。  満二十九歳。  私よりひとまわり以上も年下なのか。
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