一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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 東京女子連続強姦殺人事件の被害者は三か月という短期間に四名にも上った。  犯人がターゲットを選んで凶行に及んでいるのは明らかで、被害者はいずれも若く美しいお嬢さんばかりだった。  年齢は二十五歳から二十九歳までの範囲に収まり、全員が仕事熱心で勤務態度も真面目な女性だったと言う。  こういう犯罪の被害者を悪くは言わないということを差し引いても、彼女たちは皆、善い女性であったことは間違いない。  夜な夜な繁華街や飲み屋に現れるようなタイプは一人もおらず、学生時代は学級委員や美化委員をやっていたような優等生然とした女性ばかりが作為的に選ばれている。  犯行手口は完全にパターン化されていると見られる。  夜十時を過ぎた頃、住宅街のある比較的大きな駅の裏手で会社帰りで独り歩きの女性が狙われる。 「急に、すみません。可能なら少しだけ手を貸していただけないでしょうか」  丁寧なしっかりした口調で若い男が声をかけてくる。  女性が立ち止まると、そこには足に大げさなギプスをした松葉杖の男が立っている。 「怪我をしていて不自由なものですから、荷物を運ぶのに苦労してしまって……」  見ると確かに傍らには大手電器メーカーのものらしきダンボールが置いてある。 「重いものではないんです。パソコンのモニターなんですよ。車はすぐそこなんですが、さっきからどうしてもうまく運べなくて困っていまして」
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