一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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 彼女は自分が被害者たちと同じ属性であることに気がついていたのだ。 「ああ、黒髪のロングヘア!」  ぽんと手を打って堀くんが口を挟む。 「それも毛先がゆるく巻かれたスタイル。ちょうど、こんな風な」  私は左手で自分の髪をひと巻き、つまみ上げてみせた。 「確かに被害者の写真、並べてみるとそっくりですよね。なんていうか、印象が」  私は仕事中は邪魔にならないようひっつめてしまったりもするが、彼女たちの髪型は判で押したように同じだった。  犯人は意図的にロングヘアの女性を選んでいる、と分析官でなくてもすぐに気づいた。  東京では危ないからと髪を切る若い女性もいたほどだ。  そのせいでこの事件、マスコミには「東京ロングヘア殺人」なんて呼ばれている。  警察がつけた正式の名称より、本質を鋭くえぐっているのだから笑ってしまう。  ロングの女は独り歩きに気をつけろ。  五人目の彼女も、そろそろ髪型を変えた方がいいのかしらと考えていた矢先だったのだ。  荷物を運ぶのなら、どうしてこの人、女に声をかけたのかしら。  ひとつ芽生えた疑問がふたつ目の疑問を生じさせた。  この箱……量販店で買ったのかな? だとしたら、いつ、どこの店で? こんな時間に駅前で箱を持って歩いているその理由は何。  ましてやこの人は、松葉杖をついている。  量販店で買ったのなら、そのまま駐車場まで運ぶはずなのに。  わざわざ駅前で荷を下ろす必要が、あるのだろうか。  ドミノ倒しのように疑問が次々と広がっていく。
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