一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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 彼女は直感的に後退った。 「ご、ごめんなさい! あたし、急いでいますんで、ごめんなさい!」 「あ、待って」  彼女は身を翻して走った。  駅の反対側に小さな交番がある。  とにかく誰かと一緒にいたかった。  一人でいたら、あの男に追いかけられそうな気がした。  追いかけてもしかしたら殺……  駆け込んだ駅前交番には巡査が二名待機していた。 「すぐそこで! 知らない男に声かけられたんです! 松葉杖! もしかしたらあれ、ロングヘア殺人の……」 「なんだって?」  半信半疑ながらすぐに連絡が行き、駅からほど近い場所で実施した検問に男の車が引っかかった。  車両後部からは五人目の女性が言った通り、パソコンのモニターの箱と松葉杖、ギプスに加えてロープ、大きなシャベル、真新しいバール、軍手などとともに盗品らしきナンバープレートが複数見つかった。  どういうルートで入手したのか、いずれもまだ盗難届けの出されていないナンバーだったという。  また、運転していた男には手も足も怪我をしている事実は認められなかった。 「ナンバープレート?」 「どうも複数のナンバープレートを使い分けていたみたいなのよね。駐車場で被害者を拉致した後にどこかでナンバープレートを付け替えて、現場で殺害及び死体遺棄して街へ戻ってくる時にはまた別のナンバーを、普段乗り回す時には本来のナンバーを、というように」
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