一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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「そりゃ限りなくクロですね」 「でも自白は取れなかったみたいなのよね」 「状況証拠のみってやつですか」  苦い顔で堀くんが奥歯をぎゅっと噛み締めた。  自白が取れなかった。  これは意外と大事なところなのだ。  今は昭和以前のように暴行してまで自白を取ろうとした時代とは、確かに違う。  だが警察だってその道のプロだ。  私の鑑定してきた犯罪者たちは全員が自白をしていた。  強要されたんです、本当は無実なんです、などと訴える者もいなかったわけではないが、彼らも一度は自白をしているのだ。  素人が根性で乗り切れるほど、警察の取り調べは甘いものではない。  そうでなければ冤罪など生まれるものか。  ましてや、やっているのに意志の力だけで何日間も口を閉ざせるなんて人間業ではない。  特にこのケース、そこそこの物証も出てはいるのだ。  警察だって必死になって落とそうとしただろう。私も会ったことがあるが、警察には驚くほど「落とし」の巧い刑事がいる。  それでも万堂は、一度もやったと言わない。
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