一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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「……それって」 「シロだったんでしょうね。そうでなければ、警察だって鬼の首を取ったようにデータにして寄越すでしょうからね」  合理的に考えればそういうことになる。  日本のポリグラフ技師の腕は確かだ。  再検査もしなかったということは、ベテランの仕事だったと私は、思う。 「でもあれだけナメた態度の男ですよ。ポリグラフもぎゃーぎゃー騒いで有耶無耶にしたのかも」 「ポリグラフって嘘や動揺を検出する機械じゃないのよね。犯人の記憶を探る道具なのよあれは」  一般によく誤解されていることだが、あれは嘘をついた時に針が振れるというような仕組みではない。  実際に検査で訊かれるのは「犯人しか知らない記憶」のことなのだ。  たとえば、凶器。 「あなたは被害者をハンマーで殴りましたか」 「あなたは被害者をレンガブロックで殴りましたか」 「あなたは被害者をバールで殴りましたか」……ビンゴ。  だから仮に容疑者が何も答えなくても、その「質問」に反応が出てしまう。  証拠を何も残さない犯罪などこの世に存在しないのだ。  もし仮に物証をすべて奇麗に拭い切れたとして、最後に記憶だけは残るだろう。  DNAと同じくらいに私は、ポリグラフには期待している。  今はまだ司法界で広く認められているとは言えないが、いずれは重要な証拠になる可能性は秘めている。 「でも機械を騙せる人間はいるかもしれませんね」
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