一、ハバネラ(恋は野の鳥)

43/53

60人が本棚に入れています
本棚に追加
/354ページ
 ペラペラと調書の写しをめくっていた堀くんの丸っこい指が、止まった。 「うわ。ほらここ……万堂のワゴンカーを詳細に調べた結果、被害者のものと見られる毛髪が二本、発見されたと書いてあるんですが?」 「それも別人のものがね。ええと確か、二人目と三人目のものだったかな」 「いやこれどう考えても、決まりじゃないですか。動かぬ証拠ですよ、これは。これで有罪に出来なかったら、犯罪なんてやったもん勝ちになっちゃいますって!」  とうとう堀くんが手のひらを上に向けて首を振った。  なんかこういうオモチャ、小さいころに縁日で見た気がする。 「でも被害者の遺体からは何も出ないのよね。決定打になるようなものがないっていうか。これじゃ、運んだのは僕だけど殺したのは別人、とでも言われたらどうしようもなくなるわよ」  強姦殺人とは言うものの、犯人のDNAが調べても調べても検出されなかったのだ。  精液はおろか、通常このたぐいの事件では検出される唾液なんかも、少なくとも充分な量は検出されなかった。  よって犯人のDNA型は不明。 「どういうことですかね」 「どういうことだと思う?」  遮光された研究室の中で私たちは首を捻って黙り込む。
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加