60人が本棚に入れています
本棚に追加
/354ページ
短い沈黙を破って、堀くんが言いづらそうに口を開いた。
「とするとですよ、この犯人は、あの、性的に……」
「インポテンツってことね」
「ええまあ、その。そういうことです」
目を合わせないままで堀くんが頷いた。
それも考えたのだが、私にはどうもしっくり来ない。
ロシアのチカチーロが確か性的不能のセックス殺人犯だが、彼は犯行時には勃起も射精もできるのだ。
逆に言えば、セックス殺人でも勃起や射精に至らないなら、犯行を繰り返さなかったのではないか。
東京ロングヘア殺人は四人もの犠牲者を出した、連続殺人だ。
「うーん。なんかよく分かんないわね。これがほんとの不能犯?」
「あっ、すいません、全然笑えないですそれ」
私の不謹慎なジョークに堀くんがピシャリと言い切って話の矛先を変えた。
「案外これで物取りのセンということは?」
「金銭目的で? どうかしらね。確かに被害者が持っていたはずの物品……財布とか免許証とか、女性だから鞄ひとつないというのは不自然だし。犯人は確実に、そういった被害者の所持品は現場から持ち帰っているわよね」
最初のコメントを投稿しよう!