一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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 短い沈黙を破って、堀くんが言いづらそうに口を開いた。 「とするとですよ、この犯人は、あの、性的に……」 「インポテンツってことね」 「ええまあ、その。そういうことです」  目を合わせないままで堀くんが頷いた。  それも考えたのだが、私にはどうもしっくり来ない。  ロシアのチカチーロが確か性的不能のセックス殺人犯だが、彼は犯行時には勃起も射精もできるのだ。  逆に言えば、セックス殺人でも勃起や射精に至らないなら、犯行を繰り返さなかったのではないか。  東京ロングヘア殺人は四人もの犠牲者を出した、連続殺人だ。 「うーん。なんかよく分かんないわね。これがほんとの不能犯?」 「あっ、すいません、全然笑えないですそれ」  私の不謹慎なジョークに堀くんがピシャリと言い切って話の矛先を変えた。 「案外これで物取りのセンということは?」 「金銭目的で? どうかしらね。確かに被害者が持っていたはずの物品……財布とか免許証とか、女性だから鞄ひとつないというのは不自然だし。犯人は確実に、そういった被害者の所持品は現場から持ち帰っているわよね」
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