一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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 短い首をすくめた堀くんに微笑とともにこう返す。 「柔軟な発想は大事よ。私は怒ったりしないから、何か思いついたら何でも言ってみて。正解しなくても、思いつくことは全部検討していきましょう。この犯人、少なくともありきたりの心理じゃなさそうだから」  この事件の犯人はおそらく、過去の殺人犯とは性質が違うのだろう。  何を考えているのかいないのか、さっぱり分からない。  こういう事件が起きてしまった時、不安を煽られた社会が知りたがるのは「誰が」そして「なぜ」やったのか。  そこが解明されてはじめて、枕を高くして眠れるようになる。  遺族にしても裁判で知りたいのは「なぜ」。  なぜ大切なあの人が殺されたのか、殺意の有無は。  つまり、犯人の心だ。  納得はいかなくても、せめて知りたい。  犯人は一体何を考えているのか! 「そりゃ精神鑑定の依頼も来ますよね」 「それも私のような『鋼の女』にね」  ぶっと息を吐いて堀くんのお尻が回転椅子からずり落ちた。
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