一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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「あれ? 新東拘の方、行ったことないわね、さては」 「ああそうか、新棟できたって言ってましたね、そう言えば」  そう言えば、どころかもうずいぶん前の話だ。  時の流れの早さに思いを馳せて、ちょっとくらくらしてしまう。 「全然旧舎と違うから。見て損はないわよ」  今度連れて行かなくては。  この仕事をやっていくには必要な洗礼だ。  私もずいぶんとあそこにはお世話になっている。  無論、収監されたことなどは一度もないが。  東京拘置所は今やハイテク要塞に生まれ変わっている。  臭いメシ、なんて言われていたのは一昔も二昔も前の話だ。  完全に管理されて清潔なはずの空間は外部と隔絶されていて、受刑者が季節を感じられるのは食事のメニューと多少の暑さ寒さだけだろうと思う。
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