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「面接の様子はすべて録音しているから、人権侵害で訴えたくなったらいつでも貸してあげるわよ。で? 処女が好きなの? それとも玄人好みかしら」
「僕の知る限り処女が嫌いな男はいないな。そして僕は男だ」
私たちの会話を録音機の隣で堀くんがハラハラしながら速記していた。
「大人しくて真面目な女性が、残業で遅くなった帰り道を狙い定めて暴行するのも、男はみんな好むのかしら」
万堂哲人の薄い口元は緩やかな弧を描いて黙っている。
ぺらぺらと私は続ける。
世間話。
そうだこれは世間話。
大事なのは内容ではなくて、彼の反応。
見逃すもんか。
「黒髪のロングヘアの若い女の子。皆タイプが似ているのよ。やっぱり犯人はそういう女性が好みなのかしら。親切な女の子ばかりだそうよ。荷物を持って初対面の男の車まで運んでくれるような」
「初対面の男? それは軽率なんじゃないかなあ。心配ですよ」
「その男が怪我をしていたら、どうかしら。これ見よがしにギプスなんか括りつけて、申し訳なさそうに紳士的に声を掛けてくるんですって。すぐそこまでなんですが、松葉杖なものでどうしてもうまく運べなくて、って」
「へえ、松葉杖ですか」
よく考えるなあ、なんて言って朗らかに笑っている。
面接室の白い壁に天窓から差し込む太陽光が切り取られて斜めに刺さる。
熱は遮断されているはずなのに、そこだけ浮かび上がったように暑く見える。
スポットライトに照らされてキラキラと埃が光って見えるように。
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