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「その上、その男、あなたみたいに奇麗な顔をしていたそうよ」
万堂の顔から微笑みは消えたが、驚きは見せなかった。
「うん。それで? だから、何」
抑揚の質は変わらない。
声の圧もまったく変調しない。
たいした面の皮だこと。
だんだん、チェスでもやっているような気分になってきた。
無色透明のチェス盤を挟んで。
今、どっちが圧してる?
手番は、私。
「最低のクソ野郎だと思うわ」
「それは同感だけど。でもそれ、僕に関係ないよね。それから、あなたにはもっと、関係がないだろう」
「どうしてそんなことしたの」
わざと軽い調子で訊いたら即答が返ってきた。
「どうして? それを調べるのが、あんたの仕事だろ、センセ? やったかやらないかを調べるのはあんたの仕事じゃない。だけど……」
そこで言葉を切って、じっと私を見つめ返す。
「僕、ほんとにやってないからね。あんたの仕事は時間の無駄だってことだ」
「あなたがやってないのを信じるのは、私の仕事じゃないわね。弁護士にでも言いなさいよ」
「ご忠告どうも。でも僕、弁護士断っちゃったんだよね」
それを聞いて、私は目を見開いてしまった。
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