一、ハバネラ(恋は野の鳥)

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「その上、その男、あなたみたいに奇麗な顔をしていたそうよ」  万堂の顔から微笑みは消えたが、驚きは見せなかった。 「うん。それで? だから、何」  抑揚の質は変わらない。  声の圧もまったく変調しない。  たいした面の皮だこと。  だんだん、チェスでもやっているような気分になってきた。  無色透明のチェス盤を挟んで。  今、どっちが圧してる?  手番は、私。 「最低のクソ野郎だと思うわ」 「それは同感だけど。でもそれ、僕に関係ないよね。それから、あなたにはもっと、関係がないだろう」 「どうしてそんなことしたの」  わざと軽い調子で訊いたら即答が返ってきた。 「どうして? それを調べるのが、あんたの仕事だろ、センセ? やったかやらないかを調べるのはあんたの仕事じゃない。だけど……」  そこで言葉を切って、じっと私を見つめ返す。 「僕、ほんとにやってないからね。あんたの仕事は時間の無駄だってことだ」 「あなたがやってないのを信じるのは、私の仕事じゃないわね。弁護士にでも言いなさいよ」 「ご忠告どうも。でも僕、弁護士断っちゃったんだよね」  それを聞いて、私は目を見開いてしまった。
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