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海外と違って東京拘置所の囚人はおとなしいのか、基本的には静かで規則正しく、掃除も入浴もよく管理されているから生きていくのに何の支障もない空間なのだが、それでもあの息詰まる圧迫感は独特だ。
権力というものに終始のしかかられている感覚がある。
空気が、やたらと重いのだ。
それでいて変に機能的というか、余計なものを極力排しているので居心地はよくない。
もっとも、居心地のよい快適空間なんかに設計しては刑務所の意味がなくなってしまうのでそれが正解なのは間違いないだろう。
たとえば何の味もにおいもしないパサパサに乾いたビスケット。
塩を振らずに握られた具のない古米のおむすび。
新東拘はそんなものに似ている。
それでも囚人の汗や涙の染みついた臭くて煮しめたような旧舎に比べたらずっとずっと快適なはずなのだが。
トントン、とノックの音がしてまだ充分新しい白いドアが開いた。
「失礼します、お連れしました」
「ご苦労さま」
地味な制服の職員の後ろから、万堂哲人の姿が見えた。
あれが世間を騒がせた連続殺人犯。
はじめて殺人犯に会う時はいつも心のどこかが高揚している。
誰だってそうだとは思うけれど。
私が出会った殺人犯の大半は男だったから、なおさら。
力では絶対に勝てない。
人を殺すのに躊躇のない男。
少なくとも一度以上、それをやった男。
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