二、私のお母さん

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 有名なロンドンのジャックのように切り刻んだわけではないから、現場に血はあまり流れていない。  けれど目を開けたまま絶命した被害者の口元には渇いた血がこびりついていた。  内臓が破れて吐血するまで、繰り返しやられるのだ。  胴は痛々しい痣にまみれそこかしこが青紫に腫れあがっている。  激しく抵抗したのだろうか、肋骨や大腿骨が骨折していた被害者もいた。  彼女たちの嘆きの絶叫が聞こえてきそうな今際の顔。  彼女たちが、何をしたというのか。  何の落ち度もない女性たちを平然と殴り蹴り死に至らしめた犯人が許せないと誰だって思う。  平然と……?  いや違うか。  それ以上だ、たぶん。  犯人は非常に冷静だ。  彼は血に酩酊しているんじゃない。  血管を切って血が吹き出すような、分かりやすいスプラッターに走らない。  撲殺魔。  それも一撃で殺さないやり方で、徐々に弱っていく獲物を狩る。  じわじわと追い詰めて殺す。  愉しんでいる。  陰湿な、獣。
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