二、私のお母さん

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 研究者としては実績もまずまずで、将来のある若手扱いされることも少なくはないが、女としては若いという感じはもうしなくなってしまった。  完全に盛りを過ぎている。  仕事場ではナルシストの殺人犯、家に帰れば自分勝手な耄碌ババァに付き合って、私の人生が浪費されてゆく。  だから当然の帰結として、こんな中年になっても私の婚歴はまっさらなままだ。もちろんとっくに諦めているけど。  私は春につがえなかった小鳥。  結婚という椅子取りゲームで座り損ねた余りもの。  それならそれで、別の仕事をすればいいだけ。  そもそも子育てやなんか、向いているとも思えないし。  いまだかつて子どもというものを好きだと感じたことがない。  ふうと湿った息を吐いて、その息がクソの臭いをしていないことに安堵する。  殺人犯と我儘老人、どちらがマシかと言えばそれは明らかに前者だ。  万堂が誇らしげに言い切ったように彼が美しいからなどではなくて、単純に観察していて面白いのは殺人犯の方だから。  私は小さい頃からなぜか犯罪者に興味がある。  自分にもその傾向があるからなのかは未だに答えを先送りしているが、昔から古今東西の犯罪者の話を読んだり聞いたりするのが大好きだった。
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