二、私のお母さん

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 趣味が高じて今では犯罪心理学の研究者にまで辿り着いた。  私の経歴はちょっと特殊で、堀くんのように最初から大学にいた人とは違っている。  アメリカ留学もしたし、精神科医を経由しているから、ちゃんと医師免許だってある。  医務官として臨床経験を積んでコツコツ研究論文を書いて認められ、今は私学で研究室をもらえるようになった。  ここまで来るのにずいぶんと時間と労力がかかってしまったけれど、気がつけば後ろにしっかりと道ができている。  そういう他人から見れば華々しいキャリアも、私のまっさらな婚歴の一因だったのかもしれないが。  それならば仕方がない。  恋愛よりも私、犯罪の方が好きなんだもの。  だからこの歳まで結婚できなかったことを嘆くつもりは一切ない。  その分、仕事ではきちんと結果を出してきたのだから。  今回の仕事も研究室に掛かってきた一本の電話からスタートしている。  精神鑑定を引き受けてくれないか、という電話はいつだって泣き言から始まるのだ。  精神鑑定を進んで引き受ける研究者は稀だから。  報酬もたかが知れているし、労力の割に評価につながらない。  それどころか、法廷で尋問されてどうでもいいような細かい質問に間違えて恥をかかされることだってよくある。
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