二、私のお母さん

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 殺人犯の中には明らかに思慮が足りない者、短絡思考の粗忽者なんかも多いが、稀に突出した知性を持った者たちがいる。  彼らには彼らの論理があって、殺人に踏み切る。  そういう人間と話をするのが、なぜだかたまらなく、楽しいのだ。  普通の正常で一般的な感性を持った人間なんかと話すより、はるかに。  普通の感性を育んだ人間はたぶん、人殺しなんかと話して楽しいなんて、きっと思わないのだろう。  たとえば堀くんも興味があってこの仕事に就いているはずだけれど、嬉々として殺人鬼と話しているところなんか想像もできない。  どこか壊れているのは私の方だ。  私と堀くんよりも、私と殺人鬼たちの方がおそらく、心理的な距離は近いはずだ。  紙一重のところで私は、こちら側にいられているのに過ぎない。  だからこそ、今回の仕事が回ってきたのだろうとも思ってはいるが。 「そういうわけで福山先生からもお断りされてしまったので、もう頼める方が先生しかいないんですよ」  東京ロングヘア殺人の犯人は、好みがうるさい。
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