二、私のお母さん

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 どうも一度引き受けた精神鑑定の大家と決裂して、鑑定人の方から降りてしまったということらしい。  その後釜というのも気が引けるが、被告は精神鑑定自体には興味を示している、問題は誰が鑑定するかということだ、との話であった。 「そんな大変な役を、私なんかが受けていいんですか」  そりゃあもう庵野先生しかいませんよ、という言葉の半分はリップサービスとしても、あとの半分は本心ではないかと思われた。  あの面倒臭い殺人犯は女が好きなのだ。  四人も騙して強姦殺人するくらいには。  ひょっとしたらヤツは女鑑定人になら口を開くのではないか、という思惑が透けて見えた。  しかし問題は鑑定人の方だ。  いくら第三者がいるところとは言え、密室に連続婦女暴行犯と一緒にいてその精神を鑑定することができるほど、肝の据わった女でないと務まらない。 「なるほどそれで鋼の女の出番というわけですか」 「あ、いえ、そんな……ははは、庵野先生は物怖じなさらない方だから」 「やってみましょう」
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