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朝が来ると絶望の味がする。
起きるのが嫌なんじゃない、生きるのが嫌なのでもない。
まだあの女が生きているのが分かるのが、どうしてもたまらなく厭なのだ。
湿っぽく籠もった臭いがする部屋を開けると、ベッドの中から恨めしそうな腫れぼったい目を向けて母が顔を思い切り、歪めた。
何時から起きているのだか知らないが、朝は意外と妄想は少ない。
「おはようございます。今日はデイサービスの日ですからね。ヘルパーさんが来てくれるまでに支度をしてください」
「ふん」
むくれて突き出したその口。
かさかさの唇に、熱した火箸でも押し当ててやりたくなる。
乱暴に布団をはがして横を向かせる。
どうして私がこんな女のシモの世話までしてやらないといけないのか。
親子ってだけじゃないか、こんちくしょう。
「痛いっ! もっと丁寧にやってちょうだい!」
「時間が、ないの。大人しくして黙っていなさいっ」
ジッと強く見据えたら、皺まみれの目を閉じて母は観念したように重い息を吐いた。
認知症とは言ってもアルツハイマー型ではなかった。
レヴィ小体型で、パーキンソン症状が出始めている。
この女はもう一人では自分の身体を自在に動かすことはできないが、時間をかければ動けないこともない。
自宅でも介護が可能という判定なので、仕方なく私がやる羽目になっている。
どこの施設にもベッドの空きがないのだ。
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