二、私のお母さん

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 こんな時、一人娘は負担が大きい。  優しかったかもしれないが見事に何の役にも立たなかった父親は、とっくの昔に死んでいる。  あの時はまだこの女も身体能力は正常だったので(精神の方はもともとどうかしている)、父の終末期のほとんどの世話は母がやったのだと思う。  私はその頃、アメリカにいたので何も知らない。  知りたくも、ない。 「ねえ、リッちゃん。背中が痛いの……」  喉の奥から哀れっぽい声を出して同情を引く老婆。 「あらそう、治まるといいですね」 「痛いの。痛いのよう。ああ……」  布団の中でいつまでも嘆いていればいい。  私はどんなサービスもしてやらないと決めている。  だってお前は、私が昔そうやって泣いて訴えた時、何をしてくれた?  善意には善意が返り、悪意には悪意が返る。  そういう法則だと、釈尊が言っているらしい。  私は仏教徒でないので、よく知らないが。
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