二、私のお母さん

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 昨日のうちに買っておいたコンビニのパンと、あの女に飲ませるドロドロの流動食を用意する。  パック詰めされた流動食では味気なくて可哀想なので、たっぷりとお酢を入れて差し上げる。  だってお酢って健康にいいんでしょう?  母は昔から酸っぱいものが嫌いだった。  私も酸っぱいものは好きじゃないのに、弁当には米の上にいつもれんこんの酢漬け(なぜそんなものをわざわざ買ってくるのか!)がのっていた。  ご飯が酢飯みたいな味になって悲しかった。  食べ避けて残して帰ると罰を与えられた。  夕食の味噌汁の中に私だけれんこんの酢漬けが入れられた。  弁当は腐るといけないから、と大義名分を振りかざすくせに、何の意味もなく味噌汁にれんこんの酢漬けを放り込んでくるその論理性のなさに辟易する。  父はいつだって、地蔵のように押し黙って私たちの小競り合いを見て見ぬふりをしていた。  使えない男。  たまに米がおにぎりになっている時は、いつだって具材が酸っぱすぎる硬い梅干しだった。  嫌がらせのように梅干しは二つ入っていた。  私はこの女が自分のおにぎりには鮭を使っていることを知っている。  一度間違えて、持っていったおにぎりの中身が鮭だったので、気がついたのだ。
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