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ルームサービスよろしくしずしずと特製流動食を持っていく。
私のスマイルは高額なので、起きろと怒鳴ってプラスチックのコップをぐいと頬に押し当ててやるだけだ。
「わかってるわよ、わかってるわよ……」
疎ましげな顔をして母がのろのろと起き上がるのを待ってなどいられない。
残念なのは、この女の舌はもうひどく錆びついていて、自分が何味のものを食っているのか識別できていないことだけだ。
「あと二十分でヘルパーさん来るんだから、とっとと食べてくださいネッ」
押し付けがましい自分の声はかつてのこの女の声によく似ている。
同じ遺伝子が使われているのだ。
この女が短髪に刈られている(洗うのに面倒なので)から私は長い髪を意地でも切らないのだけど、それでも自分のふとした表情だとか声、癖なんかに若い頃の母親を見つけると、単純にイライラしてしまう。
血が繋がっていなければ、まだ許せたのかもしれないのに。
私は封印するように母の部屋の戸をぴっちりと閉めて、コンビニのへなへなしたパンにがぶりと歯型を付ける。
コーヒーのしっとり柔らかい匂いが少しだけささくれ立った神経を落ち着かせてくれた。
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