二、私のお母さん

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 まさか教員の方もこの子どもが将来重大な罪を犯すことなど予見しているはずもないから、どの子どもにも同じくらい丁寧に指導をしてそれを記録に残しているということなんだろう。  幼少期からの生活記録というのは、心理職にとっては宝の山だ。  一般の目に触れることはないが、これがあるのとないのとでは、人間理解に大きな差が出てくるものだ。  時々犯罪者の指導要録を見て、はて私の要録には何が書かれていたのだろうと思うことがある。  無論、興味本位で取り寄せることなど出来はしないが。 「成績優秀ですね……気持ち悪いくらいに」  堀くんが感心したのか呆れたのか分からないトーンで続ける。  レポートの山に阻まれて表情がまったく見えないのだ。 「こんなヤツ、クラスに一人はいましたよね。優等生と言うか、何やらせても卒なくこなす子ども。異常に要領がいいんでしょうね、簡単に言うと」 「勉強がまんべんなくできる子はよくいるけど……万堂はおよそ弱点というものがないみたいね。運動科目も芸術科目も最高点、欠席もないから健康状態も良好だったんでしょうね」 「その上あのツラとか、完璧じゃないっすか」  そう完璧。  まさに模範児童といったところだ。
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