二、私のお母さん

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「午後からの面接は初めてじゃないかな、センセ?」 「そうかもね。じゃあ、こんにちは。ということで」  何故か今日は万堂の機嫌がよかった。  理由があるのかないのかも、私にはまだ分からない。  万堂は行儀悪く片脚を揺らしながら、身体を斜めに座っている。  長い脚を持て余しているとも見えるが、これは警戒か。  機嫌の良さとは一致しないボディランゲージ。  相変わらずお奇麗な顔面には余裕を浮かべている。 「小さい頃の話を聞かせて」 「小さい頃?」  わずかに万堂の眉がヒクついた。 「あなただって小さい頃くらいあったでしょう。どんな子どもだった? ううん、まずはそうねえ。一番古い記憶を教えて?」  万堂は無表情のまま天窓から差し込む光に視線を転じた。  待つ。  万堂が口を開いた。 「僕、あんまり昔の記憶がないんで」 「またまた。なんでもいいのよ。なんなら作り話でも、かまわないわ」 「いや、ほんとに。僕には幼少期の記憶はほとんど、ない。いくつかないこともないんだけど、それが本物の記憶だという実感はない。なぜなら、僕の記憶の中に僕自身の姿が入ってしまっているからだ」  明解な説明だった。
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