二、私のお母さん

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「それを、あなたはおかしいと感じるのね?」  万堂はまっすぐに私を見つめ返した。  とても嘘を言っているとは思えない眼差し。  加えて言えばこの内容の嘘をつく理由も今のところ私には見当もつかない。 「おかしいですよね? 本物の記憶なら僕には僕は見えていないはずなので。鏡に写っているとかならまだしも、幼少期の僕らしき子どもを、見ている誰かの記憶。これは明らかにおかしいでしょう。おそらくこれは僕の記憶ではなくて、写真か何かを見て作ってしまった偽の記憶ではないかと思っている」 「他の人の記憶はないの? お父さんとかお母さんとか」 「そのファイル熟読してくれたら分かると思うんだけど、僕には父親がいないんだよね。父親と思っていた人ならいたけど」  万堂にとって祖父は「父親と思っていた人」に当たるということが、これで分かった。 「いつ彼が父親でないと分かったの?」 「小学生の時にはなんとなく気づいてたね。あの人は姉にしちゃ年が離れていたし、あの人たちは親にしては年寄りすぎる。同級生のいう祖父母という人から僕はお年玉をもらったことがない。当然会ったことも、話で聞いたことも、なかった」 「なるほど」  坦々とこなされた、その説明も的確だった。
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