二、私のお母さん

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「確信を持ったのはいつなのかしら」 「それは中学生になってからですね。相次いで、祖父母が死んだので」 「遺産相続?」 「ザッツライト」  お道化た口調で答えてみせる。  口の端が左右不均等に歪んでいた。  とすると、これが成績不振の原因だろうか。  思春期のちょうど「よくない」時期に出生に関する真実が明かされてしまった。  実の父母ではなかった養父母たちが相次いで亡くなっているその時に知るには心理的負担が大きかったか。 「それであなたは、どう思った?」 「どうって別に……ああやっぱりな、とくらいしか」  急にナイーヴな少年のように万堂が目を伏せた。  この人のまつ毛はやたら、長い。  黒いアゲハチョウの吸い口のように繊細で痩せた頬に弱く揺らめく影を落とす。 「それで嫌になってしまった?」 「え? 何が?」  顔を上げた瞳は傷ついたようにキラキラして見えた。 「お母さんが」 「…………」  短い沈黙を差し挟んで、彼は低く答えた。 「それはその前からでしょうね」 「前から? それじゃお母さんより、お祖母さんの方が好きだった?」  一歩踏み込んだ質問に、ハッと強く息を吐き出して万堂が表情を崩した。
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