二、私のお母さん

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「そういう言い方だと誤解を生みそうだな。そもそも僕はあの女が嫌いなので、祖父も祖母もそれよりはるかにマシだというだけの話。好きか嫌いと訊かれたら、誰のことも全然好きではないでしょう」 「へえ。奇遇ね。私もだわ」  本心からそう相槌を打ったら、万堂と堀くんが同じ目をしてこちらを向いた。  私はぷっと軽く吹いて天井を見上げた。  見慣れた私の研究室のより新しくて開放感のある真白い天井。 「ねえ、万堂くん」 「なに」 「あなた人を好きになったことある? 女でも男でも、とにかく自分以外の誰かを」 「ないね」  と彼は即答した。  私は自分でもはっきりと分かるほどいい気持ちで微笑んだ。 「それは結構。私たち、理解し合えるかもしれない。無論あなたが協力してくれたら、だけどね」  万堂は無表情にスキャンするみたいな目で私の顔をじろじろと見つめた。  もともとこの人はひどく無遠慮な視線を持っているけれど、今まででいちばん長い時間、私の顔を見つめ続けた。  そして。  たっぷりした空白の後で万堂が答えた。 「ナメたこと言ってんじゃねえぞ、精神科医ふぜいが」
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