二、私のお母さん

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 どこから出しているんだと思うほど低く押し殺した声で、ギラついた目玉が燃えているように見えた。 「僕は誰にも理解されないし、理解しない。よく覚えておけ」  蛇のように真っ赤な舌がチロチロと覗く。  でもここで怯むわけにはいかなかった。  ここでナメさせたら、終わってしまう。  逆に言えば、今この反応を返したということはこの男は、私が怖いのだ。  過剰防衛。  心理的な。  だから踏み込む。  相手は繊細な少年なんかではない。  この男は卑劣な犯罪者。  そして私は。 「ごめんなさいねえ? あなたを理解して分析するのが、私の仕事なのよ。プロフェッショナルとして」  ガンッ、と机を叩く大きな音がしてすぐ目の前に蛇の瞳が圧しつけられた。 「庵野さんっ!」  堀くんの声が聞こえて、法務センターの職員が何か言ってこっちに来ようとするのをまだ辛うじて自由な左手で制した。 「イキってんじゃねえよ、女のくせに」  ハッと吐いた生暖かい息が顔にかかった。  意外と不快感はなかった。 「ほんとはビビってんだろ。目ぇカッぴらいてんぞ、あァ?」 「おい万堂! 離れろ!」  堀くんと職員とどちらの声だか聞き分けられなかった。
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