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万堂は私に触れようとはしなかった。
身を乗り出して圧を掛けてくるだけだ。
そもそも彼には腰紐がつけられていて、滅多なことはできないことになっている。
それでも爛々としたその目だけで、ここまで脅して来られるわけか。
殺人者の、目。
私は見たことがある。
確かにこの人は殺しの色の目をしてる。
なんとも言えない、いい色してる。
文字通り釘付けになる。
殺人者の目ってね、意外と濁りのない奇麗なものよ。
近くで見ると呼吸すらおぼつかなくなる。
「あの女たちにしたみたいに、してやろうか、今ここで?」
首筋にまとわりつくように囁く声に、私はようやく言葉を返せた。
「熟女もイケるクチとは、知らなかったわね」
ハン、と鼻で笑って万堂がようやく椅子に座り直した。
物理的に開いた距離の分だけ、私の呼吸が楽になる。
「熟女って普通、色気のあるオバサンに言うもんだろ。まあ色気があろうがなかろうが、僕の趣味じゃないけどね」
ほっとしたのが私だけでないのが、はっきりと分かった。
部屋の空気が一瞬で安堵に変わる。
万堂がくるりと後ろを向いて、堀くんに向かって笑いかけた。
「ねえ、もしかしてまァた引っかかったの? アハハハハ! 僕ってそんなに怖いかなあ? 何度も言っているんだけど! 僕、本当にやってないからね? 東京ロングヘア殺人の犯人は、僕ではありませぇん!」
ギャハハハハ、と場違いな笑い声を上げる万堂を堀くんが眼鏡越しに強く強く、燃え盛るような目を向けていた。
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