二、私のお母さん

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 採光がいい分、クーラーの効いた店内でもハンカチを弄びながら堀くんが何かごにょごにょ言っている。 「本当には危なくはなかったわね、さっきのは」 「ハッタリですか? あれが?」  暑がるわりに何故かホットコーヒーをすすって堀くんが眉根を寄せた。  堀くんは夏場でも冷たい飲み物を積極的には摂ろうとしない。 「彼、私に触ろうとしなかったのよね」 「……ああ、そういえば」  万堂にかせられていたのは腰紐のみで、彼の両手は自由だった。  実際、机を両手で叩くことはできていたわけなので、もっと私に圧を加えることは可能だったはずだ。  たとえば肩を掴むだとか、腕を引っ張るといった行為も容易だったはず。  もっと言えば、そうしていた方が自然だったと私は考えている。  だが万堂のしたことは、机を叩いただけ。  大げさなただの、威嚇。 「それで思ったんだけど、彼は、女が嫌いなんじゃないかしら」 「え?」  丸い顔に負けず劣らず目を丸くして、堀くんがまともに私を見返してきた。 「じゃあ冤罪だって、思っているんですか? やってないって、本気で信じてる……?」 「いいえ。十中八九、彼の仕業で間違いないと思ってるわ。あの目、そういう目をしてる。でもその目的が、あなたたちが思っているような理由ではないんじゃないかってこと」 「十中八九って。一、二割も信じているんですね、あの男のこと」
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