二、私のお母さん

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 忌々しげに奥歯を噛み締めて堀くんが俯いた。  握り込まれたハンカチにも皺がつく。 「可能性としては、あるんじゃないの」 「ないと思いますよ」  いつになくきっぱりと、堀くんが言い切った。  万堂とは比べ物にもならないくらい優しい瞳が私を貫く。  透き通ってまっすぐな、奇麗な目。  同じ奇麗な目にしても、万堂のそれとは種類が違う。  人間の目って脳の一部よ。  発生学的に言えばの話だけど。 「ないと、思います。あれは庵野さんが思っている以上の化け物に、俺には見えます。気をつけてください。あなたを軽んじているわけではないけど、心配です」 「どうもありがとう。でも、もしかしたら私も堀くんが思っている以上の化け物かも、しれないわよ」  ニヤッと笑って見せたのに、堀くんはうんざりした顔をしてコーヒーカップを勢いよくあおった。  太い指を通したカップの取っ手がおもちゃみたいに見えた。 「ほんとに気をつけてくださいね」  他の客の姿は見えずとも声が響いて喧しい店内でできる話はもうそれ以上は何もなかった。
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