月明かりは死を照らす

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

月明かりは死を照らす

 淡い光が、まるで白夜のように不気味で神秘的な空間を広げていた。ディルは暫く歩いた後、背負っていたステリを手頃な岩場にそっと降ろした。ここなら、ステリが愛する月が綺麗に見える。  月なんて、すぐに見つかると思っていた。月のような衛星を持つ惑星は無数にある。だからステリを喜ばせることは容易なはずだった。  ディルはステリを連れて、数えきれないくらいの惑星を訪れた。でも何故か、ステリの故郷で見た月と同じような衛星は見つからなかった。  ディルにとって、ステリは不思議な生き物だった。ステリの故郷では、そこで暮らす生き物全てが、ほんのひとときを過ごしたあとに目を閉じる。ディルにはその現象も、それによってもたらされる結果も、理解できなかった。  ステリは、ディルとはいつまでも一緒には居られないと言った。目を閉じるまでのほんの少しの間だけ、ステリはディルのことを好きなのだと。それはステリやディルが、月を見て綺麗だと思うことと同じなのだと言った。  ディルには分からなかった。“いつまでも”が叶わない、その意味が分からなかった。  ステリは月を愛していた。それならばと、ディルはステリの手をとって、星空へと空高く泳いでいった。ステリに、この広い宇宙にある月を沢山見せてあげよう。そうすれば、ステリはわざわざ目を閉じることはしないだろう。きっといつまでも同じ惑星に居るから、退屈して目を閉じてしまうんだ。ならばもっと、綺麗な月を見せてあげよう。ステリがいつまでも、目を開けていられるように。  新しい月を見つける前に、ステリは目を閉じてしまった。きっと故郷を離れてから長い間月が見れなくて、退屈してしまったのだろう。ディルはステリにもう一度目を開けてもらうために月を探し続け、やっとこの惑星に辿り着いた。優しく光るこの惑星の月は、ステリの故郷から見える月のように美しかった。  ステリ、目をあけてごらん。君の愛する月を、その目で見て。  ステリは優しく微笑んだまま、目を開けない。二人は月の光に、いつまでも照らされていた。  ディルがその目から流れるものの意味を知るのは、もう少し先のことである。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!