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「たぶん、今も笑って暮らしていたんじゃないかな。幸せを感じていたのかもしれない」
「ええー、お姉ちゃん、それ怖いって。今度はちゃんとした男性探そうね」
香梨奈は大げさに溜息をついている。
友里亜は思った。ちゃんとした人か。夫、いや彼は父親にも信じてもらえず、唯一信じられる存在だった母親の言葉を信じていた。約束を破らない人を探していた。私は、いえ私もその前の六人も好奇心から彼との約束を破ってしまった。そういう意味ではちゃんとしていなかったのは私の方なのかもしれない。好奇心に負けて約束を破った私は、あなたにはふさわしくなかった。それが、私があなたから離れた理由。あなたが母親におこなっていたことや、六人の女性にした仕打ちでもなく、私自身があなたにふさわしくないと思ったから。
「香梨奈、いこっか」
彼の母親がこの後どうなるのかは、友里亜が知る由もない。もう二度と入ることのない大きな屋敷の玄関に一礼をし、友里亜はキャリーバッグを引き、歩き始めた。
【了】
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