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「高園ぉ!お前どんだけ学習能力がねぇんだコラァ!クビにしたっていいんだぞ?あぁ?」
クビになんて出来ないくせに。
こんなブラック企業、人材確保に必死で掴まえた社員を離すつもりなんかないくせに。
「クビにしたいならクビにしてください」
瑠衣は初めて反抗した。
クビにしてくれよ、いっそ。そうしたら清々する。もうこの部長の顔を見なくて済むんだから。
「なんだとてめぇ!もう一回言ってみろ!許さねぇからな!」
「許してもらわなくていいです」
瑠衣は気丈に部長に反抗した。
もっと早くこうしていればよかった。こんな部長なんて虚勢を張っているだけなんだから。
「いいからさっさと仕事に戻れ!二度と楯突くんじゃねぇぞ」
ほら、辞めさせられない。
解放してくれよ、もう。
しかしその日、瑠衣は簡単なデバックをミスした。部長に散々叱責され、仕事が片付いたのは深夜2時だった。その間、奏はじっと瑠衣を前の席から見つめて待っていた。
「終わりました…すみません、奏先輩」
「帰るぞ」
ビルのエレベーターに乗った時だった。
ガシャンッと音がしてエレベーターが止まった。
「なんだ?」
奏が緊急連絡ボタンを押す。
しかし応答がない。こんな深夜、監視官もいないのだろうか。瑠衣は不安な気持ちになる。
「エレベーターの故障でしょうか…どうしよう」
「あー、もう」
奏がズルズルと壁を背に床に座り込んだ。
瑠衣もズルズルと隣に並んで座る。
一時間ほど経っただろうか。
エレベーターは一向に復旧する様子がない。一体いつまで閉じ込められるんだろう…瑠衣は不安になった。そして仕事の疲れでウトウトとし始めていた。目がしょぼしょぼして今にも閉じてしまいそうだった。
するとその時だった──
不意に奏が瑠衣に口付けてきた。
「ん、うっ」
「寝るな」
奏がキツい口調でそう言ってくる。
瑠衣は申し訳なくなって奏に謝った。奏だって、疲れているのに。
「すみません…」
それから二時間、三時間経ってもエレベーターは動かない。
奏が瑠衣の肩にもたれかかってきた。
「奏先輩?」
奏が寝息を立てていた。俺には寝るなって言ったくせに。クスッと瑠衣が笑う。瑠衣も奏の頭に寄りかかった。こんな時間が幸せだと思ってしまうなんて。
俺はもう完全に奏先輩に惚れてしまっている。
奏先輩には絶対に言えないけれど。
奴隷でもいい、傍にいさせて、奏先輩。
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