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二人の幼馴染
オレには自慢の幼馴染が二人いる。
「おはよう皇」
同じタイミングで隣の家から出てきた背の高い男、これが幼馴染の一人の皇だ。
皇は同い年で物心つく頃からのお隣さんだった。
保育園から小中高とずっと一緒で、親同士も仲が良くもはや家族に近い存在だ。
癖毛の黒髪から覗く垂れ目が俺を見てへにゃりと笑う。
「おはよ…」
「相変わらず朝弱いな」
のろのろと近付いて来ると皇は背後からオレの頭に顎を乗せる形でぴったりと密着してきた。
「この季節は特に…厳しい…」
「はいはい、寒いからってくっつきすぎ歩きにくいだろ」
「…あゆむの身体、体温高くてあったかいから好き」
でかい図体に似合わず皇は人一倍寒がりだ。
昔から肌寒くなってくるとすぐにくっつきたがる。
「オレは暑いんだって」
それに比べてオレはどちらかというと暑がりなので、薄手のシャツの上からベストを着るぐらいがちょうどいい今ぐらいの気温だと、しっかり着込んだ皇に密着されると暑苦しくてうっとおしい。
「離れろよ」
「あとちょっと…」
「そんなの動いたら寒くなくなるぞ。ほら、早歩き!」
オレはサッと皇の懐から逃げ出すと、そのごつい腕を掴んで引っ張った。
なんだか散歩を拒否する犬を無理矢理連れ出している飼い主の気分だ。
のんびり屋な皇のペースに呑まれると時間ギリギリになってしまうので、いつもこうやって先導しながら登校している。
ほんとマイペースだよなぁ、でもこんなに大らかだから身体も大きいのか?
オレより20センチは高いだろう身長は未だ記録を更新中で、もう少しで190の壁を突破するらしい。
もはや自販機じゃん、いや自販機越えか。
*
「…っセーフ、」
駅に到着しなんとか時間通りの電車に乗ることができた。
が、毎度のことながらこの時間帯は乗車率が高くてぎゅうぎゅうの箱詰め状態だ。
慣れてはいるが平気ではない、扉付近の手すりに掴まり転んでしまわないように踏ん張るが、不意に電車が大きく揺れてバランスを崩してしまった。
「わっ…ぷ、」
「大丈夫?」
顔面から着地したのは皇の胸で、咄嗟にごめんと顔を上げると皇は掴まっててと自分の腕を持たせてくれた。
オレを間に挟むように壁に肘をついてスペースを確保する皇は頼もしくて、さっきまでののんびりネムネム幼児はどこへやら。
「…ぐぅ、」
訂正、やっぱりこいつはでかい赤ちゃんだ。
皇はそのままの体制で器用にも仮眠をとり始めた。
遠慮もなくオレに体重を預けてくる皇の固い胸板に頰を潰しながらオレは虚無った。
密着度が増して、鼻先いっぱいに皇ん家の柔軟剤の匂いがする。
満員電車特有の様々な体臭だったり香水だったりが混ざった臭いが苦手なので正直助かる。
皇は香水なんてつけないし、このほんのり甘い石鹸の匂いは好きだ。
「(それにしても…)」
電車の揺れにカクンと頭を振りつつ、意地でも眠り続ける皇を見てよく寝れるよなぁと呆れた。
こんだけ睡眠を摂ればそりゃあ身長も伸びるよな、昔はオレよりちっちゃかったのに。
皇の恵まれた身体にどうすれば近づけるのかと考えながら、段々後ろに傾いてきているのを引っ張りつつこちらに体重をかけさせる。
皇とは保育園時代からの仲だけど、小学校を卒業するまではオレのほうがでかかった気がするのに、そこからあっという間に抜かされたもんな。
いいなオレも平均ぐらいあるけど欲を言えばもっと伸びてほしい。
あと皇ぐらい筋肉がほしいし、胸板も厚くなりたいしがっしりしたい。
遺伝か、結局遺伝なのか。
皇の父親はハーフなのでやはり遺伝子なのだろう。
これでも中学は三年間テニス部でしっかり運動していたし、今もバイトでそれなりに重い物を持ったりして筋肉はついてるはずなのに、うーん。
真面目に筋トレでもするか、勉強の合間とかに。
そう決めた辺りで学校の最寄りに到着した。
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