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「え…は?」
二人の告白に理解が追いつない。
「な、なんて…?」
聞き間違いかと思ってもう一度問うと、じれったいと言わんばかりに春太が叫んだ。
「あゆむが好きなの!」
声でか。
どうやら聞き間違いじゃないらしい。
「…えっ、だ、だって二人は付き合ってるんじゃないのか?」
だってあんなことしてたのに…。
あんな濃密なこ、行為をしておいて、オレが好きだなどとはどういう了見なのか。
「付き合ってないよ。皇は練習台っていうか…」
「セフレ」
「そうそう」
皇の口から生々しい単語が出てきて衝撃が走る。
春太もそれに同調してるし、いやいやいや。
あまりのことにオレは開いた口が塞がらなかった。
「だってあゆむ、アプローチかけても中々靡いてくれないし。こんなに好き好きアピールしてるのに気付いてくれないし」
「だから卒業を機に一緒に暮らして、あわよくばそういう雰囲気になった時の為に二人で練習してた」
「あとあんまりにもあゆむが鈍いから、悶々としちゃって、その欲求解消?みたいな」
あっけらかんととんでもないことを白状する二人。
な、なななんて?練習?欲求解消?
こいつらの貞操観念は一体どうなってるんだ!
「あーあ、あゆむが気付いてくれるまで言うつもりなかったのになぁ。でもヤってるとこ見られちゃったらねぇ」
「うん、結果としてあゆむを傷付けたし、もう隠せないと思って。ハルと話して、今日告白することに決めた」
待って、少し待ってほしい。
全然話についていけなくて頭がショートしそうだ。
いきなり好きだとか言われても困るし、それにオレはそういう目で二人を見たことなんてないのに…。
「わかってるよあゆむ」
「え…?」
「あゆむがボク達のこと唯の友達としか思ってないこと」
ぎくりとした。
なんで思ってることがわかるんだ?
「顔に出てるもん。困ってますって。はぁ…だから秘密にしときたかったのに。…でも、」
ここまで言っちゃったんだからもう引けないよね。
春太がこっちに近付いて来る。
思わず後退すると、いつの間にかすぐ後ろに皇がいた。
至近距離から二人に挟まれて、オレは逃げることも出来ず萎縮する。
「ねぇ、覚悟してね。絶対好きにさせてみせるから」
「俺も、もう遠慮しない」
オレを見据える二人の視線は真剣そのもので。
本当にオレのことが好きなのだと思い知らされる。
こんな宣言をされてどうしたらいいんだろうか。
二人のことは好きだけど、そういう意味の好きじゃないのに。
「まあとにかく、」
春太にこめかみの髪を耳にかけられる。
突然のスキンシップに戸惑っていると、春太がふふっと微笑んだ。
「三人で暮らすの楽しみだね」
「え…」
「俺達が万全に準備するから、あゆむは受験に専念して」
皇の声が耳元で囁かれてドキリとしたが、聞き捨てならない台詞にタンマをかけた。
「ちょ、ルームシェアするのか…?」
「え、しないの?あゆむはボク達のこと嫌いなの?」
瞳をうるうるさせ上目遣いでこちらを見る春太。
これで数多の人間を堕としてきたのだろう。
春太は自分の可愛らしさをよく理解しているので、こうやってすぐ顔を武器にするのだ。
「嫌いじゃないけどだって…」
今二人に告白されたばかりなんだけど?
一緒に暮らしていいのかこれ?!
「それじゃあ断る理由なくない?付き合う付き合わないは置いといて、普通に三人で暮らしたくない?だってボク達仲良しの幼馴染じゃん」
「あゆむに恋愛感情が無くたって、俺達は一緒にいたいけど、それじゃダメ?」
「だ、だめじゃないけど…え?そういうもの?」
だんだん正常な判断が出来なくなってきた。
混乱するオレに、二人は追い討ちをかけるかのように、そういうものそういうものと唱えてきた。
そ、そういうものなのか。
じゃあ別に白紙にしなくてもいいのか。
なんだ、そうか。
猫のように戯れて腰に抱きついてくる春太と、背後からくっついてオレの肩に顔を埋める皇をそのままにして、オレは考えることを放棄した。
なんだかどうにでもなれって思えてきた。
ははは。
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