全力のすれ違い

2/2
前へ
/43ページ
次へ
「え…は?」 二人の告白に理解が追いつない。 「な、なんて…?」 聞き間違いかと思ってもう一度問うと、じれったいと言わんばかりに春太が叫んだ。 「あゆむが好きなの!」 声でか。 どうやら聞き間違いじゃないらしい。 「…えっ、だ、だって二人は付き合ってるんじゃないのか?」 だってあんなことしてたのに…。 あんな濃密なこ、行為をしておいて、オレが好きだなどとはどういう了見なのか。 「付き合ってないよ。皇は練習台っていうか…」 「セフレ」 「そうそう」 皇の口から生々しい単語が出てきて衝撃が走る。 春太もそれに同調してるし、いやいやいや。 あまりのことにオレは開いた口が塞がらなかった。 「だってあゆむ、アプローチかけても中々靡いてくれないし。こんなに好き好きアピールしてるのに気付いてくれないし」 「だから卒業を機に一緒に暮らして、あわよくばそういう雰囲気になった時の為に二人で練習してた」 「あとあんまりにもあゆむが鈍いから、悶々としちゃって、その欲求解消?みたいな」 あっけらかんととんでもないことを白状する二人。 な、なななんて?練習?欲求解消? こいつらの貞操観念は一体どうなってるんだ! 「あーあ、あゆむが気付いてくれるまで言うつもりなかったのになぁ。でもヤってるとこ見られちゃったらねぇ」 「うん、結果としてあゆむを傷付けたし、もう隠せないと思って。ハルと話して、今日告白することに決めた」 待って、少し待ってほしい。 全然話についていけなくて頭がショートしそうだ。 いきなり好きだとか言われても困るし、それにオレはそういう目で二人を見たことなんてないのに…。 「わかってるよあゆむ」 「え…?」 「あゆむがボク達のこと唯の友達としか思ってないこと」 ぎくりとした。 なんで思ってることがわかるんだ? 「顔に出てるもん。困ってますって。はぁ…だから秘密にしときたかったのに。…でも、」 ここまで言っちゃったんだからもう引けないよね。 春太がこっちに近付いて来る。 思わず後退すると、いつの間にかすぐ後ろに皇がいた。 至近距離から二人に挟まれて、オレは逃げることも出来ず萎縮する。 「ねぇ、覚悟してね。絶対好きにさせてみせるから」 「俺も、もう遠慮しない」 オレを見据える二人の視線は真剣そのもので。 本当にオレのことが好きなのだと思い知らされる。 こんな宣言をされてどうしたらいいんだろうか。 二人のことは好きだけど、そういう意味の好きじゃないのに。 「まあとにかく、」 春太にこめかみの髪を耳にかけられる。 突然のスキンシップに戸惑っていると、春太がふふっと微笑んだ。 「三人で暮らすの楽しみだね」 「え…」 「俺達が万全に準備するから、あゆむは受験に専念して」 皇の声が耳元で囁かれてドキリとしたが、聞き捨てならない台詞にタンマをかけた。 「ちょ、ルームシェアするのか…?」 「え、しないの?あゆむはボク達のこと嫌いなの?」 瞳をうるうるさせ上目遣いでこちらを見る春太。 これで数多の人間を堕としてきたのだろう。 春太は自分の可愛らしさをよく理解しているので、こうやってすぐ顔を武器にするのだ。 「嫌いじゃないけどだって…」 今二人に告白されたばかりなんだけど? 一緒に暮らしていいのかこれ?! 「それじゃあ断る理由なくない?付き合う付き合わないは置いといて、普通に三人で暮らしたくない?だってボク達仲良しの幼馴染じゃん」 「あゆむに恋愛感情が無くたって、俺達は一緒にいたいけど、それじゃダメ?」 「だ、だめじゃないけど…え?そういうもの?」 だんだん正常な判断が出来なくなってきた。 混乱するオレに、二人は追い討ちをかけるかのように、そういうものそういうものと唱えてきた。 そ、そういうものなのか。 じゃあ別に白紙にしなくてもいいのか。 なんだ、そうか。 猫のように戯れて腰に抱きついてくる春太と、背後からくっついてオレの肩に顔を埋める皇をそのままにして、オレは考えることを放棄した。 なんだかどうにでもなれって思えてきた。 ははは。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加