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「ねぇなんか二人とも変じゃない?」
その後合流しに図書室までやって来た春太は、不自然な距離を空けて座るオレ達を見て訝しげに片眉を上げた。
「べ、別に…なあ皇」
「……うん」
平静を取り繕うオレに対して皇はさも何かありましたという態度だ。
さっき笑い過ぎたこと、まだ怒ってるのか?
煮え切らないオレ達の様子に春太は益々怪しいと言わんばかりの視線を送ってくる。
「ふーん…まあいいけど。そんじゃあジョナる?」
「お、おうっジョナろう!」
ここぞとばかりに春太の提案に乗っかった。
一刻も早くこの気まずい空気から逃れたかったのだ。
急いで鞄を持って立ち上がると、皇ものそのそと動き出した。
*
すっかり日も暮れ、春太と別れたオレと皇は帰り道を歩いていた。
街灯の光だけが辺りを照らしていて薄暗い。
「……」
ジョナについてからは普通だったのに、オレと二人きりになった途端、皇はまたぎこちなくなった。
オレもなんだかどんな話をすればいいのかわからなくなって、痛い沈黙が続く。
「…皇?」
ふと、皇が公園の前で足を止めた。
公園は陽が落ちた為、目立つ人通りはない。
「…ごめん」
「え?」
小さく謝る皇に面食らう。
「ほんとは、キスするつもりなんてなかった…ハルとも抜け駆けはなしって約束してたから」
「抜け駆け…」
いつの間にそんな約束をしてたのか。
二人揃ってオレに隠し事をし過ぎじゃないか?
まあ、もしその内容を目の前で話されても困るけれど。
「でも…せっかくカッコつけてたのに、あゆむにカッコ悪いとこ見られて情けなくて…誤魔化したくて…」
なんだよそれ…そんな理由、可愛すぎないか?
「あと、あゆむの笑った顔が可愛くて…気がついたらキスしてた」
「うっ!」
なんでそんなことサラッと言えるんだよ!
王子様かお前は!
あまりに恥ずかしい台詞に胸を押さえる。
「ごめんね…怒ってる?」
「お、怒ってない…というか、オレこそ笑い過ぎてごめん」
「めちゃくちゃ笑ってたもんね」
ふ、と皇が口元を緩めた。
空気が軽くなる。
さっきの気まずさがなくなって、オレも笑みを浮かべた。
「ねぇ、あゆむ」
「ん?」
「…あのさ、やり直しがしたい…キスの」
「う、ぇっ?」
真剣な顔でそう言う皇にオレは変な声が出た。
「ぬ、抜け駆けはしないんじゃなかったのか…?!」
「うん…でも、あれはカッコ悪すぎるから…あんなのがあゆむとの初めてのキスなんて…やだ」
やだって、おい、やめろ。
これ以上可愛さを更新するな。
「だめ…?」
やめろ、そんな風に見つめるな。
やめろったら。
「…わ、わかった」
「!」
「でも一回!一回だけだからな!」
「うん!」
これは、皇があんまりにも落ち込むから仕方なくだ。
それに、なんか、なんだか。
図書室で体験したあの感触を、もう一度味わってみたいと少しでも思ってしまった。
……健全な男子高校生なら仕方ない!
「ほら、」
向かい合わせになって、目を閉じてから顔を少し上げる。
両肩に皇の手が置かれて、心臓が煩いくらいドクドクと鳴った。
「あゆむ、可愛い…」
「う、うるさいなぁ…早くしろよ」
可愛いと言われるとなんだかこそばゆくて、つい棘のある言い方で急かす。
今が夜でよかった、多分オレの顔は真っ赤でタコみたいだろうから。
「うん、大好きだよ」
そう言ってから、ちゅっと軽く唇が押しつけられる。
やっぱり柔らかくて、皇ん家の柔軟剤の匂いがほんのり香った。
「ありがとうあゆむ」
唇が離れる。
薄く目を開くと、そこから見えた皇の顔はすごく嬉しそうで。
ほんのり色づく頬が可愛らしいなと思った。
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