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「どーぉ?気持ちかった?」
「……」
息絶え絶えのオレとは違い、ケロッとして感想を求めてくる春太。
「あはは、可愛い!半泣きになるぐらいびっくりしちゃったんだぁ」
嬉しそうにオレの目尻に溜まる涙をれろ、と舐めとると春太はどっちのかわからない唾液で濡れたオレの口元を指で拭った。
なんか…なんか!変態くさいぞ春太!
「ねぇ、皇ともこんなキスした?」
「…してない」
皇のキスはもっと軽めだったし、こんなにしつこくなかった。
「ふふ、じゃあボクが初めてだね!」
初めてのベロチューという意味ではその通りだ。
春太はオレの身体に覆い被さると、えへへと笑いながら胸にほっぺたをくっつけて寛ぎだした。
「ボクね本当にあゆむが好き。皇に負けないぐらい。あゆむも好きになってくれたら嬉しいなぁ」
どうして春太も皇もオレのことが好きなんだろう。
二人は黙っててもモテるし、オレなんかよりもっとお似合いな人から好意を向けられたりしているだろうに。
こんな友達が少なくて暗い奴が好きだなんて、二人とも変わってるよなぁ。
「あゆむ今なんで自分なんか好きなんだろって思ってるでしょ?」
両手をついて起き上がる春太。
壁ドンの床バージョンをされたのと、思っていることを見透かされたことにたじろぐ。
「だ、だってオレなんかよりもっと二人にはお似合いの…」
「だめ!あゆむ以外なんて考えられない。ボクはあゆむがいいの!」
オレの言葉を遮って春太は強く訴えてくる。
その顔は真剣そのもので、本気でオレのことが好きなんだなということが全力で伝わってきた。
本当に単純なんだが、その春太の必死さに胸がきゅんとした。
「好きだよ大好き。ずっと一緒にいたい。大切にするし、あゆむがして欲しいことなんだってする。だから…ボクのこと好きになって…お願い」
ぎゅっと抱きしめられる。
春太の温もりが感じられ、密着した身体から鼓動がドクドクと伝わってきた。
すごい、春太の心臓めちゃくちゃドキドキしてる。
さっきまでの強気な態度とは打って変わり、しおらしく弱々しい春太の姿にオレもドキドキした。
「ハ、ハル…」
「っでも!今すぐじゃなくてもいいから、さっきみたいなキスももうしない。皇とも抜け駆け禁止!って約束してるしね」
そう言うと春太はオレの上から退いて、ベッドに腰掛け微笑んだ。
「さ〜て!今日はボクん家お好み焼きパーティするんだけど、あゆむも食べていくでしょ?」
「え、」
「皇もバイトが終わり次第来るって言ってたし、じゃんじゃん焼かないとね!腕がなるなぁ〜」
力こぶを見せるように腕を掲げる春太に、オレは言いかけた言葉を引っ込めた。
というか何て言うつもりだったんだ?
オレはどうしたいんだ?皇も春太も大事な友達だ。
それは告白される前もされた後も変わらないはずなのに…。
分からない、二人から好きだと言われる度に心が揺れ動く。
一緒にいたい、春太が言っていたことを思い出す。
そんなのオレも同じだ。
二人とずっと一緒にいたい。
もしも二人が他の人を選んで離れていくことになれば、オレは寂しくて辛くてきっと耐えられないだろう。
だとしたらこれは、二人のことが好きだということになるんじゃないのか?
「……食べたい、久しぶりにハルのお好み焼き」
今度は心を見透かされないよう必死に平静を取り繕う。
もし好きだとしても、言えない…。
だってそれは皇か春太のどっちか一人を選ぶことになるわけで。
三人でいられくなるくらいなら、二人にも自分の気持ちにも嘘をついていようと思った。
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