ほんとの気持ち

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ほんとの気持ち

「なんかあっという間だったねぇ」 「そうだな、高校生ともなるとあんまり泣けないよな」 「えーあゆむちょっと泣きそうだったくせに〜」 「必死に我慢してるように見えたけど」 「……う、ちょっとだけだし」 春太と皇に揶揄わられ、オレはむず痒くなってそっぽを向いた。 図星だった。でもそんなに本気で我慢していたわけじゃないし、たまにうるっとしただけだ。 そんな言い訳を考えていると、益々二人の顔が綻んだ。 オレ達は今日高校を卒業した。 式が終わり、クラスでの担任からの最後の挨拶も終わり、後は自由に過ごせばいい。 友達と話し込んだり、写真を撮ったり、みんなそれぞれの時間を満喫していた。 オレ達も校門で三人一緒の写真を撮ろうと移動の最中だ。 アーケードを通り、校門まで並んで歩く。 ふわっと風が吹くと、どこからか桜の花びらが舞ってきた。 「すごいな、まだ春じゃないのにちゃんと咲くんだもんな」 「ね〜まあまだ3分咲きぐらいだから4月までは持つんじゃないかなぁ」 「あゆむ、頭にさくらついてる」 皇の手がオレの頭に伸びてきて、ピンク色の花びらを摘んだ。 「お…ありがとう」 「うん」 あれから、オレは二人に自分の気持ちを明かさないと決めた。 そうすると不思議と皇に対しての態度もいつも通りに戻すことが出来た。 二人のスキンシップにはどきりとするものの、今は軽くいなせてる。 このままでいい、この距離感が一番心地いいのだから。 「ハルちゃん先輩〜!!」 その時少し離れたところから春太を呼び止める声が聞こえた。 それは毎朝よく春太に声をかけていた女子で、その子の後ろにも別の女子が潤んだ瞳で春太を見つめていた。 「あ、やっほーどうしたの?」 「今ってお話し出来ますかっ?」 「…えっとぉ、」 困ったように眉を下げオレ達の方を伺う春太。 全然気にしないで行ってきてくれていい、と伝えるように指で丸を作る。 どうせ写真を撮って帰るだけなのだから、時間はたっぷりあった。 「ごめんね、すぐ聞いて戻るから!」 「急いでないから全然大丈夫だぞ」 駆け足で女子へ向かう春太。 多分これはあれだ、告白だろう。 よく漫画とかドラマでも卒業式に告白するのが醍醐味みたいなことあるからなぁ。 春太は後輩からも同年代からもモテるし。 今日が最後のチャンスだと思ってみんな思い切っているのだろう。 「ハルが来るまでそこで座って待ってよ」 オレと皇は中庭のベンチに座ってハルの帰りを待つことにした。 「いや〜やっぱりハルはモテモテだなぁ」 「そうだね、」 「一人や二人じゃなかったよなあれ、何人告白待ちしてるんだろ?」 「……」 「皇?」 突然無口になる皇に首を傾げる。 皇はなんだか複雑な表情をしていた。 「あゆむは、ハルが告白されること、なんとも思ってないの?」 「え…」 どきりとした。 どういう意味だ? 「いや、だってハルはモテるし…」 「そうじゃなくて、もしもハルが誰かの告白をオッケーするかもとか思わない?」 いやいや、だって春太はオレのことが好きだと言っているのだから誰の告白も受けないだろう。 「…ハ、ハルはだって…」 「うん、ハルはあゆむのことが好きだよ。でも振り向いてもらえないなら、他の誰かに気持ちが移ることもあるかもしれない」 「……っ」 なんで、なんでそんなこと言うんだよ。 まるでオレが二人のこと好きなの、隠しているのが駄目だと咎められているみたいだ。
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