二人の幼馴染

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* デザートも食べ終わった頃、春太がソワソワしだした。 「あのさーちょっと提案なんだけど」 そう言ってリュックの中に手を突っ込みゴソゴソと何かを探す春太。 黒いレザー生地にあんまり可愛くないキャラクターのキーホルダーや缶バッジでゴテゴテにデコられたそれは春太の趣味が詰まっていて、何が出てくるのかとわくわくしながら見つめる。 「じゃーん!」 春太が取り出したのはくしゃくしゃになった紙だった。 おお、ファイルに挟んだりせずそのままリュックに突っ込んでいるのも春太らしい。 それをテーブルの上に置いて皺を伸ばし、春太は再度じゃじゃーんと言った。 「ここ駅からも近くて間取りも充分じゃね?」 それは賃貸のチラシだった。 春太は来年美容師になる為の専門学校に通う。 そのタイミングで一人暮らしを始めるらしい。 それはオレも皇も同じだった。 皇はシェフになるという夢を叶える為に調理学校へ、オレは志望通り受かれば大学へ。 三人とも同じタイミングで一人暮らしを始める予定で、その為にバイトに明け暮れていた。 きっと住むのにいい物件を見つけたので、オレ達にも見て欲しいのだろう。 オレも受験勉強がひと段落したら探さないとなーどれどれ、と詳細を見てみる。 「駅から徒歩6分、築暦25年と古めだがリノベ済み。3LDKで学生なら家賃10%引き!安っ!この広さでこの価格は安い!」 「でしょ〜それにここ内装がいい感じなんだよね〜キッチンも広めだしぃ」 「へぇーでもいくら安いからってこの金額は厳しくないか?それに一人暮らしでこの広さって…シェアハウスでもするのか?」 「ふふふ、もー鈍いなぁ」 「え?」 春太はにんまりと笑った。 「ボク達三人で暮らさない?」 「…へ?…えっ!」 あまりのことに驚いて、オレは咄嗟に言葉が出なかった。 そんな様子を可笑そうに見る春太はニヤニヤしている。 「いいねそれ」 オレがドギマギして返事を返せない内に、隣に座る皇も賛成とばかりに小さく手を上げた。 「こ、皇…」 「だってさ〜三人で払えば家賃も抑えられるし家具も好きなもの揃えられるし、広い綺麗な家に住めるんだよ〜?」 「それは…そうだけど」 「それに家事も三人で手分けすればいいし、初めての一人暮らしは寂しくなっちゃうって聞くじゃん?絶対楽しいし、それになにより僕はこの三人でいたいの!」 「俺も」 次々繰り出される魅力的な提案。 春太と皇の言葉にオレは胸の辺りがギュッとなった。 色々溢れ出してしまいそうで、つい目が潤む。 声が裏返らないように必死に堪えて返事をした。 「い、いいの?」 二人もオレと一緒にいたいと思ってくれていることが本当に本当に嬉しかった。 オレの返事に春太はいいよ!当たり前じゃん!やったーー!と喜んで、皇も嬉しそうにやったと笑みを溢した。 「そうと決まればバイト休みの日に物件探さない?ここも魅力的だけど、他にも候補あってさ〜まだ契約には早いけど、場所とか諸々決めていきたいじゃ〜ん」 「あはは気が早いってば、親にも相談しないとだし。きっと大丈夫だと思うけど」 「ボクの親はオッケーだよん!あゆむと皇なら安心だって!」 「もう三人で住む前提で話してたんだ?」 「うん!」 ふは、と笑ってしまう。 嬉しくて嬉しくて、今日はニヤけるのが止められないだろう。 卒業しても三人でいられる未来が鮮明に思い浮かんで、もしこれから落ち込むようなことがあっても、きっと今日のことを思い出してすぐに立ち直れるぐらいの心の拠り所になるだろう。 この時は本当にそう思っていた。
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